What's IVY?

-バンカラの誇りに満ちたアイビー
(永遠のIVY展1995・日本経済新聞社)より−

板坂 元(いたさか げん)


IVYの由来

アイビーリーグという名称は、一般には植物のアイビー(蔦)のことで、大学のキャンパスにある古い煉瓦造りの建物に蔦が覆い茂っているところから由来すると言われているが、これは正しくない。アイビーリーグは本来INTER-VARSITYに由来する。VARSITYとは、大学でもどこでも正選手、つまりレギュラーを意味する。その「VARSITY同士の」という意味の「INTER-VARSITY」を略して、「I-V-Y」と呼びならわされていた。それが1930年代のある時に、ニューヨークの新聞記者が「IVY(蔦)」とスペルを書いて報道し、以来アイビーリーグという名前を付けられてしまったというわけである。このアイビーリーグのバーシティーたちには、大学の予算で作られたバーシティージャケットが配られた。それは大学のスクールカラーによって色が違い、大学のマーク(ハーバードの場合はH)が付いていたりした。これを商品化してブルックスブラザーズ社が売り出しているが、バーシティージャケットといえば本当は大学からもらうものに限られていることは、日本では知られていないようだ。
英国の場合、イートンやハロウさらにはオックスフォード、ケンブリッジのスクールタイやスポーツジャケットを一般の人は絶対に着ない。それは、その人がどこの学校の学生なのか、あるいは出身なのかを表す物だからである。アメリカは英国ほど厳しくはないが、アイビーリーグのバーシティージャケットが非常に権威ある物とみなされていることは間違いない。アイビーリーガーたちはこれを一生大事に持ち続け、よほどのことがない限り手放したり人に貸したりすることはない。それは一生の記念になる勲章のようなものなのである。

アイビーリーグとは?

そもそもアイビーリーグとは、アメリカ東部にある名門8大学-ハーバード、イエール、ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、ペンシルベニア、プリンストン-によって結成されているアメリカンフットボールのリーグ戦のことを指す。いずれの大学も古くからの歴史と権威に縁取られ、優秀なエリート学生が集まることで知られている。これら8大学の間で1930年ごろからシーズンを定めて定期的なフットボールの試合が行われるようになるが、これがいわゆるアイビーリーグである。日本で例えるなら東京六大学野球といったところだろうか。シーズンは9月に始まり、11月下旬にリーグの最終試合であるハーバードとイエールの試合で幕を閉じる。このハーバードとイエールの試合はTHE GAMEと呼ばれ、アイビーリーグはいうに及ばずプロでさえ、今なおTHE GAMEと呼んではならないほどに、この伝統の一戦は特別扱いされている。アイビーリーグはフットボールの本場アメリカでも歴史的に格式が高いだけでなく、今世紀の初めごろまでは全米で一番強いリーグでもあった

アイビーリーガーのファッション

アイビーリーグ・ファッションというと、東部のおしゃれな金持ちのスタイルと受け取られがちだが、実際にはそうした認識とは少し異なる。アイビーリーグの8大学は今でこそ中産階級の公立校出身者が多数在学しているが、元々は全員がプレップスクールから来た人ばかりであった。プレッピーはアメリカの特権階級、いわゆるWASPの人々で、エリート意識が強く、先祖代々曾祖父の時からアイビーリーグ出身という人たちである。家系の伝統に従って、子孫たちも必ずアイビーリーグの大学に進学するのである。
そのプレッピーのファッションはというと、冬でもソックスを履かないで、裸足に靴を履き、どんなに寒い日でもダウンのジャケットの前を絶対に閉めない。またスポーツジャケットにしても、くたびれた、だれが主人なのか長年ジャケットに知らしめた物を着、セーターもお爺さんのころからの物を、肘が破けてしまってもスエードのパッチを当てて着る。これがプレッピーのおしゃれなのだ。つまりバンカラということである。
ただ普通の学生生活ではバンカラでも、いざとなるとちゃんとスーツを着こなす。そして高級ホテルで家族と共に食事をしたりする。プレッピーとはそういったことを子供のころから身につけてきている人々なのだ。

1940年代に入ると、アメリカでも教育改革、教育の民主化が行われ、アイビーリーグの大学でもパブリックスクール出身者が入学できるように変わっていく。パブリックスクール出身者には秀才が多く、現在ではハーバードでも学生の半数をパブリックスクール出身者が占めている。ただしプリンストンだけは非常にお金のかかる大学なので、今でもパブリックスクール出身者は比較的少ないはずである。
大学で、プレッピーとパブリックスクール出身者は溶け込むことをしない。おそらく卒業するまではお互い朽ちも利かないという人が圧倒的に多いと思われるが、それはライフスタイルがまったく違うからである。もちろん、パブリックスクール出身者のアイビーリーガーもいるが、やはりプレッピーの方が「俺たちが本物だ」という意識が強いのだろう。また逆にパブリックスクール出身者の人たちも絶対にプレッピーのまねをしたりしない。まねなんかしたがらないのだ。
息子はプレップスクールの出身だが、高校一年生のときにすでにフランス語を徹底的に鍛えられ、サルトルやボードレールを読んでいた。アメリカではそうした教育を行っているので、チカラの差がいやおうなくはっきりと現れる。大学でも、勉強する人は非常によく勉強する。そういう人がアメリカを支えてきたのだが、それがアイビーリーガーである。アイビーはアメリカ社会中枢を支えてきたといってよい。アメリカは階級社会であり、政財界やトップクラスの官僚人には圧倒的にアイビーリーグ出身者が多く、現在でもその状況は変わっていない。アイビーはアメリカ社会の源泉の一つになっているのだ。